截金(きりかね)師 – 工芸作家の江里佐代子(1945-2007)の作品を紹介いたします。
截金(きりかね)について
截金は、切金とも書き、また細金ほそがねと呼ばれた時代もありました。
純金箔やプラチナ箔を数枚焼き合わせ、厚みをもたせたものを鹿皮の盤の上で竹刀にて細く線状、または、丸・三角・四角などに切り、それを筆端につけて貼りながら種々なる文様を描き出す技法で、仏像や仏画の加飾荘厳としてもちいられました。
六世紀に仏教とともに大陸より伝えられ、最古のものは飛鳥時代の法隆寺金堂の「四天王像」や東大寺戒壇院の「四天王像」、正倉院宝物の「新羅琴」の表面に見ることが出来ます。
その後十一世紀頃より浄土教や法華経美術に多用され、わが国独特の截金として典雅、華麗なる仏教美術の華を咲かせました。
文様も唐草文・つなぎ文・七宝文などの曲線文様なども加わり、十三世紀頃には他の仏教美術とともに頂点を極めますが、次第に仏教美術の凋落、金泥技法の出現などで、截金の手法は衰退し、その名称すら忘れ去られていました。
そして近世以降は、東西両本願寺の庇護のもと少数の截金師により伝承されて来ました。
截金の輝きを今の時代に復興したく願って、日常は仏像に截金を施していますが、限られた方の目に触れるだけで、寺院の仏堂の内陣奥深くに安置されます。
まず截金を知っていただくために、身近に用います工芸作品への展開を試み、茶道具、住空間にかかわる筥や屏風、衝立、額装壁面装飾作品等、さらに建築壁面装飾へとその可能性は徐々に拓かれて参りました。
しかしその原点は古人が仏荘厳として心を尽くして生み出した技法・技術であることを大切にしています。
そしてさらなる展開を求め、現代を表現してゆきたいと願っております。
江里 佐代子拝
【江里佐代子の略歴】 ◆昭和20年(1945年) 京都に生まれる ◆昭和39年(1964年) 京都市立日吉ケ丘高校美術課程日本画科卒業 ◆昭和41年(1966年) 京都私立成安女子短期大学意匠科染色コース卒業 ◆昭和53年(1978年より) 北村起祥師に師事 伝統截金の手ほどきを受ける ◆昭和57年(1982年) 京都府工芸美術展/大賞「截金彩色屏風 萬象放輝」 新匠工芸展/知事賞・佳賞「風炉先屏風」 江里佐代子截金展(東京銀座 和光ホール) ◆昭和58年(1983年) ジュネーヴ民族学博物館(スイス)にて講演と実演 ◆昭和59年(1984年) 江里佐代子截金展(東京銀座 和光ホール) ◆昭和60年(1985年) 日本工芸会近畿支部展/日本工芸会賞「截金彩色八角筥 蝶夢幻想」 新匠工芸展/努力賞・新人賞「短冊箱」 ◆昭和61年(1986年) 京展/市長賞「衝立 コスミック・ウェーブ」 京都工芸美術作家協会展/奨励賞「衝立 夜間飛行」 日本工芸会正会員認定 ◆昭和62年(1987年) 江里佐代子截金展(東京銀座 和光ホール) ◆昭和63年(1988年) 京展/毎日放送賞「三枚折屏風 響」 ◆平成1年(1989年) 京展/産経新聞社賞「二枚折屏風 夢は大空の彼方」 ◆平成2年(1990年) 京都府工芸美術展/優秀賞「風炉先屏風 煌煌し」 伝統工芸第七部会展/朝日新聞社賞「截金彩色小筥 花ひらく」 明日への茶道美術公募展/鵬雲斎千宗室家元賞特別選賞・淡交社賞奨励賞「香盒 五節」 江里佐代子截金展(ドイツ・フランクフルト) 江里康慧・江里佐代子展(東京銀座 和光ホール) ◆平成3年(1991年) 日本伝統工芸展/日本工芸会総裁賞「截金彩色飾筥 花風有韻」 ◆平成4年(1992年) 伝統工芸第七部会展/日本工芸会賞「截金彩色飾小筥 たまゆら」 明日への茶道美術公募展/淡交社賞奨励賞「風炉先屏風 万象」 ◆平成5年(1993年) 日本伝統工芸近畿展/日本経済新聞社賞「截金飾筥 游華」 一般財団法人民族衣裳文化普及協会/民族衣装文化功労者・伝統文化賞 京都府/あけぼの賞 江里康慧・江里佐代子展(東京銀座 和光ホール) ◆平成6年(1994年) 茶道美術公募展/淡交社賞 特別奨励賞「風炉先屏風 円鏡」 正倉院宝物「漆彩絵花形皿」模造制作参加 ◆平成9年(1997年) 京展/市長賞「衝立 ファンタジア」 ニューヨーク・ジャパン・ソサエティー(アメリカ)にて講演と実演 江里康慧・江里佐代子展(東京銀座 和光ホール) ◆平成10年(1998年) クリーブランド美術館(アメリカ)にて講演と実演 ◆平成11年(1999年) 江里康慧・江里佐代子展(京都ブライトンホテル) ◆平成12年(2000年) 公益財団法人中信美術奨励基金/京都美術文化賞 ◆平成13年(2001年) 日本伝統工芸展/高松宮記念賞「截金飾筥 シルクロード幻想」 江里康慧・江里佐代子展(東京銀座 和光ホール) 江里康慧・江里佐代子展(京都高島屋 美術画廊) ◆平成14年(2002年) 重要無形文化財「截金」保持者認定 公益財団法人ポーラ伝統文化振興財団/伝統文化ポーラ賞 一般財団法人民族衣裳文化普及協会/民族衣装文化功労者・特別伝統文化賞 ◆平成15年(2003年) 京都府/文化賞功労賞 ◆平成17年(2005年) 紫綬褒章 京都迎賓館内部装飾 晩餐室「舞台扉 響流光韻」、 大広間「欄間 日月」、貴賓室「透塗飾り台」・「透塗卓」 ◆平成18年(2006年) 京都市/文化功労者 江里康慧・江里佐代子展(東京銀座 和光ホール) ◆平成19年(2007年) 公益財団法人仏教伝道協会/仏教伝道文化賞 大英博物館(イギリス)にて講演、実演、調査 10月3日アミアン(フランス)にて歿 (62歳) 旭日小綬章 ◆平成23年(2011年) 江里佐代子截金作品追慕展(東京銀座 和光) 【主な役職】 日本工芸会 参与 京都府工芸美術作家協会 理事 京都造形芸術大学 客員教授 龍谷大学 客員教授 東京芸術大学大学院 非常勤講師 金沢美術工芸大学 非常勤講師 広島市立大学 非常勤講師 同志社女子大学 嘱託講師 【主な作品と所蔵先】 ・フランス ミッテラン大統領 香合(山田無文老師より贈呈) ・スリランカ ジヤヤワルデネ大統領 香合(裏千家茶道使節団より贈呈) ・中国 趙樸初 中国仏教会長香合(松山萬密老師より贈呈) ・中国 北京中央テレビ ABU京都賞トロフィー「放光」(NHKより贈呈) ・スイス ジュネーブ民族学博物館 大黒天像 ・文化庁 飾筥「シルクロード幻想」 ・文化庁 八角飾筥「花風有韻」 ・宮内庁 截金彩色飾筥 他 ・京都府 府立資料館 屏風「万象放輝」 ・京都府 料理旅館 坂の上 衝立「華宴」 ・京都府 (株)じゅらく 衝立「はなうたげ」他 ・京都府 京都ブライトンホテル 額装「白色白光」「洸」「華の宴」 ・京都府 京都府民総合交流センター 壁面「百花悠遊」 ・京都府 ホテルグランヴィア京都 壁面「宙煌く」 ・大阪府 帝国ホテル 壁面「響流放光」「交響詩」 ・滋賀県 叶匠寿庵 衝立「コスミックウエーブ」他 ・和歌山県 金剛峯寺 奥の院 「高坏」 ・三重県 式年遷宮記念神宮美術館 飾筥「白色七彩」 ・三重県 パラミタミュージアム 衝立「そらのあさ、そらのよる」衝立「心光」 他 ・岐阜県 茶室万葉亭 欄間 ・静岡県 三養荘 舞台壁面「峰光」 ・静岡県 MOA美術館 風炉先屏風「綺羅星」 他 ・東京都 帝国ホテル 額装「黎光」 ・東京都 国際交流基金コレクション 盒子「春の風」 ・東京都 東京国立近代美術館 六角組飾筥「六花集香」 ・千葉県 浦安ブライトンホテル 額装「雪月花」 ・宮城県 ホテル佐勘 壁面「あけぼの」 【仏像截金荘厳 (一部)】 ・北海道 天融寺 阿弥陀如来立像 ・東京都 長照寺 釈迦如来坐像 ・山梨県 向嶽寺 観音像 ・山梨県 久遠寺 四天王 不動明王 愛染明王 ・山梨県 久遠寺 文殊菩薩 普賢菩薩 仏天蓋 ・長野県 全芳院 聖観音菩薩坐像 ・愛知県 一畑薬師 十二神将立像十二躯 ・奈良県 唐招提寺 鬼子母神半跏像 ・京都府 東山浄苑 阿弥陀如来像(十二尺立像) ・京都府 三千院 不動明王立像 ・京都府 南禅寺清涼殿 聖観音菩薩座像 ・京都府 法住寺 後白河法皇坐像 ・島根県 一畑薬師 薬師三尊十二神将仏画 ・福岡県 正行寺 雅楽御堂 阿弥陀如来立像 ・和歌山県 高山寺薬師堂 壁面「瑠璃放光」 ・和歌山県 普賢院 金剛薩埵像 ・佐賀県 瀧光徳寺客殿 壁面「聚光」